HIV・エイズ(AIDS)とは?症状・感染経路・検査などについて

2022.10.28

HIV・エイズ(AIDS)とは?症状・感染経路・検査などについて

記事監修 岡 淳寿 医師

現在の感染経路の大半は性行為で、日本でのHIV感染者は、数年前まではアナルセックスをするゲイの男性が大部分でした。しかし、近年では風俗で働く女性から一般の女性にも広がっており、限られた人だけが感染する病気ではなくなっています。  

HIV・エイズ(AIDS)とは?

HIVはウイルスの名前、エイズは病気の名前。
HIV感染=エイズではありません。詳しく見ていきましょう。

HIVとは

HIVとは、Human  Immunodeficiency Virusの頭文字をとったもので、正式にはヒト免疫不全ウイルスと言います。1980年代に発見されました。
細菌やウイルス、カビなど、私たちの身の回りにはいろいろな病原体が存在しています。
この病原体に対して免疫機能がバリアとなり、身体を害さないよう働くのが正常な状態。

ところがHIVに感染すると免疫機能が低下し、バリアが働かなくなっていきます。
その結果、通常ではかからないような様々な病気を発症しやすくなっていくのです。

エイズ(AIDS)とは

エイズ(AIDS)とは、Acquired Immunodeficiency Syndromeの頭文字をとったもので、HIV感染によって免疫不全になり引き起こされる主な病気の総称。
正式名称を後天性免疫不全症候群と言います。

HIVに感染するとHIV感染症になりますが、さらにエイズを発症したと診断されるのは、エイズ指標疾患として定められている23ある合併症のうちのいずれかを発症したとき。
受診時に多いのはニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、食道カンジダ症です。

HIV感染症は、早期に発見できれば合併症を防げるようになりましたが、エイズを発症してからHIV感染が分かる「いきなりエイズ」が最近増えていて、問題となっています。  

HIV・エイズの感染者推移

日本国内で、エイズ患者が初めて報告された1985年以降、HIV感染者、エイズ患者とも増え続け、2013年には最多を記録しました。
その後、減少傾向にありましたが、2020年、エイズ患者の報告数が増加に転じています。

HIV・エイズの感染経路

2020年に新規報告されたHIV感染者の感染経路をみると8割以上が性行為、その他、血液感染、母子感染等が感染経路となっています。
HIVは、感染者の血液、精液や膣分泌液、母乳などに含まれるため、こうした体液と直接接触する機会が感染経路となります。

性行為
最も多いのが性行為を介した感染です。HIVは粘膜や傷口から入り込むため、ノーマルな性器性交だけに限らず、アナルセックス、フェラチオやクンニリングスといったオーラルセックスでも感染の可能性があります。また口内に出血がある場合、キスにも感染リスクがあります。
血液感染
違法薬物を回し打ちした注射器具、血液が付着したカミソリや歯ブラシといった、感染者の血液が付着したものを共有すると感染する可能性があります。
また、現在の検査や技術の水準ではほとんどありませんが、輸血用血液から感染する可能性を完全に排除することはできません。
母子感染
HIVに感染した母親から赤ちゃんへ感染する可能性があります。これを母子感染と言います。
感染するタイミングには、妊娠中、出産時、授乳時があり、何の予防措置も取らなかった場合の母親から赤ちゃんへの感染確率は約25%とされています。
誤解されやすい感染経路
HIVは感染力が弱く、熱や消毒にも弱いため、日常生活ではほぼ感染しません。
洋式トイレの便座やお風呂、プールはもちろん、コップの回し飲みや同じ鍋をつつく、握手するといった行為、咳やくしゃみ、涙、汗、理容・美容院で感染することもありません。また、エイズはネコにもありますが、ウイルスの種類が異なり、人にうつることはありません。

HIV感染からエイズ発症までの期間

HIV感染症は、急性期、無症候性キャリア期、エイズ期と進行していきます。

HIV感染後、2週間~4週間ほどの潜伏期間の間にウイルスが急激に増殖。さまざまな病原体から身体を守っているリンパ球(白血球の一種。CD4陽性リンパ球)がHIVによって破壊されていきます。

この急性期が過ぎると、無症候性キャリア期と言って、何の症状も出ない期間が数年~10年程度続きます。症状がなくてもHIVは増殖を続け、リンパ球の破壊が進んでいきます。
徐々に免疫機能が低下していき、エイズ指標疾患に定められた疾患を発症するとエイズ期になります。

HIV・エイズの症状|初期症状からエイズ発症後の症状まで

各時期ごとにどのような症状が現れるのか、解説します。

HIV感染初期(急性期)の症状
HIVは、粘膜や傷口から体内に侵入し、リンパ球(CD4陽性リンパ球)に入り込んで感染します。
ウイルスは感染したリンパ球の中で増えてリンパ球を破壊し、別のリンパ球に感染して増殖しながら破壊を繰り返し、免疫機能が低下していきます。

感染初期には、一般的に風邪やインフルエンザに似た症状が出ます。多いのは、発熱や全身のだるさ、リンパや喉の腫れ。また湿疹や蕁麻疹、筋肉痛・関節痛、寝汗、下痢、頭痛、吐き気や嘔吐等を生じることもあります。
こうした症状は感染者の50~90%に現れますが、この時期は免疫機能がまだ正常に働いていることからウイルスがいったん減少し、症状も数日~数週間で自然に消えていきます。
ただし、人によっては無症状のことがあり、HIVの感染に気付けないこともあります。
無症候性キャリア期の症状
感染初期の症状がなくなると、症状のない期間が数年~十数年続きます。
この期間の長さは個人差が大きく、15年経っても症状の出ない人もいれば、2年ほどでエイズを発症する人も。
自覚症状がないので、検査でも受けない限り、HIV感染に気付くことが難しい期間になります。

この無症状の期間中も、HIVは体内で増え続けています。ウイルスの増殖によりリンパ球が破壊されていき、目に見えずとも免疫機能は低下していきます。
免疫機能の低下がある程度まで進むと、寝汗や長期にわたる下痢、急激な体重減少が現れるようになり、また、帯状疱疹や口の中や舌が白くなる口腔カンジダ症等にもかかりやすくなります。
エイズ発症後の症状
治療せずにいると免疫機能は低下し、破綻していきます。その結果、正常な免疫機能さえあれば起こさないような日和見感染症、悪性腫瘍、神経障害等、さまざまな症状が現れ始めます。

エイズには指標疾患というものが23定められていて、そのうちの少なくとも1つにかかっていることが確認されると、エイズと診断されます。指標疾患には真菌(カビ)、細菌、原虫、ウイルスによる感染症や悪性腫瘍、神経障害などが含まれていますが、感染症で代表的なものにはニューモシスチス肺炎(旧カリニ肺炎)、サイトメガロウイルス感染症、カンジダ症、腫瘍には、悪性リンパ腫、カポジ肉腫があります。
リンパ球の数が減るにつれこうした疾患の発症頻度が高くなり、食欲の低下や下痢、低栄養状態に陥り、衰弱していきます。

HIV・エイズの検査方法と検査費用

  • 検査方法
    血液中にHIVの抗体があるかどうかを調べるために血液検査を行います。
    抗体とはウイルスを倒すために私たちの身体が作り出す免疫物質のこと。
    HIV感染の場合、抗体ができるまでに6週間~8週間かかるため、検査を受けるタイミングとして適切なのは感染が疑われる機会から8週間経過後です。

    HIV感染の検査は一般的に2段階に分かれ、第1段階のスクリーニング検査で陽性が出ると、第2段階として確認検査を行い、この検査でも陽性が出ると感染が確定されます。
    スクリーニング検査は採血当日に結果の出る即日検査も可能ですが、確認検査の結果が分かるまでには1週間以上かかります。第1段階のスクリーニング検査では感染していない場合も陽性が出ることがあるため、確認検査が必ず必要になります。
    また、検査は保健所や自治体の検査施設、病院やクリニックなどの医療機関で受けられます。
  • 自宅でできる検査キットについて
    スクリーニング検査は、検査キットを使って行うことも可能です。自分で検体を採り、専門機関に送って検査してもらう方法で、HIV検査の場合、専用の器具を使って指先から採血します。検査キットは、インターネット通販で入手することができます。

HIV・エイズの治療方法・治療薬

HIV・エイズは治る?治らない?

治療法の急速な進歩により、ウイルスが体内で増えるのを抑えながら付き合っていく病気になっています。
HIVに一度感染すると体内から完全に排除することはまだできませんが、適切な治療ができればエイズの発症を防ぎ、感染していない人と同じくらい長く、健康的な社会生活を送ることもできます。
体内のウイルス量が大きく減れば、他の人への感染リスクをゼロに近いレベルまで下げられることも確認されています。

治療できる病院はどこ?何科?

専門病院である、エイズ診療拠点病院で治療を行います。
拠点病院とは、エイズに関する総合的かつ高度な医療を提供する病院のこと。全国に約380、東京都内には約40が整備されています(令和3年10月時点)。
診療科は病院によって異なりますが、感染症科、感染症内科、内科、血液内科等が主だったものになります。

治療方法・治療薬について

治療には、HIVに対するものと日和見感染症に対するものがあります。

無症状期に感染が分かった場合は、ウイルス量やリンパ球の数を見ながら治療を行います。
3~4種類の抗HIV薬を組み合わせて内服する多剤併用療法が基本ですが、最近では1日1日1錠でよいもの、副作用の少ないもの等選択肢が多くなりました。

服用開始後は、決められた通りの方法を生涯継続することが重要。飲んだり飲まなかったりがあると耐性ウイルスを生んでしまい、治療を難しくする危険性があります。
エイズ発症でHIV感染が分かった場合は、感染症の症状が安定してからHIV治療を始める場合もあります。

HIV・エイズの予防方法|感染しないためにできること

予防方法について
HIVは血液、精液や膣分泌液に主に含まれるため、これらが粘膜や皮膚の傷に触れないようにすることが予防のポイント。性行為のときはコンドームを必ず使用します。オーラルセックスでも口の粘膜から感染する可能性があります。コンドームを使用しましょう。
コンドームの使用にあたっては、使用期限を守ること、一度使用したコンドームは捨てること、また、高温になる場所・圧力や摩擦のある場所に保存しないことも大切です。
予防薬・ワクチンについて
性行為の前に抗HIV薬を飲み、HIV感染のリスクを減らす、PrEP(プレップ。曝露前予防内服)という方法があります。決められたスケジュール通りに内服していれば、性行為によるHIV感染は99%の確率で予防できるとされています。
HIVに感染したかもしれないという場合の緊急的な予防方法としてはPEP(ペップ。曝露後予防)があります。行為後72時間以内にHIV感染症の治療薬を一定期間継続して服用し、感染のリスクを減らす方法です。
なお、HIV感染に有効なワクチンは、現在のところ存在していません。
岡 淳寿
GOETHEメンズクリニック八重洲院 院長
性感染症は、専門の医師に診察してもらうことが大切です。これからも患者さんから、『ありがとう』『助かったよ』と言ってもらえるような診療を続けていけるよう研鑽してまいります。お気軽にご相談ください。